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東京高等裁判所 昭和58年(ラ)392号 決定

抗告人

株式会社

信濃商事

右代表者

小林篤

右代理人

佐藤孝一

主文

原決定を取り消す。

本件売却を許さない。

理由

抗告人代理人は主文と同旨の裁判を求めた。その理由は「債権者を株式会社住宅総合センター、債務者を多田博とする東京地方裁判所昭和五七年(ケ)第四八三号土地・建物競売事件につき同裁判所は昭和五八年六月二八日、別紙物件目録記載の土地・建物について抗告人を最高価買受申出人とする売却許可決定をした。右物件のうち建物(以下「本件建物」という。)はいわゆる分譲マンションの一室であつて、その最低売却価額は評価人の評価に基づきその評価額と同額と定められているところ、右評価においては、本件建物は独立した一戸の居宅としてその価額が算定されている。しかしながら、本件建物は僅か14.56平方メートル(四坪強)の床面積しかないのみか、窓は全くなく、室内にはトイレと浴室の設備があるのみで、台所の設備がない。したがつて、本件建物は倉庫(物置)としてしか使用できないものであり、現にそのように使用されている。本件において現況調査を担当した執行官及び評価を担当した評価人はいずれも本件建物の内部を見ておらず、右評価においては本件建物が居宅としてその価額が算定されているため、評価額は実際の取引価額より著しく高額となつている。また、本件建物については金五五万八、二四六円の管理費が未払いとなつているが、最低売却価額を決定するについてこのことが全く考慮されていない。以上のとおり、本件売却許可決定には最低売却価額の決定について重大な誤りがあるから、抗告人はその取消しを求める。」というのである。

一件記録によると、本件建物はいわゆる分譲マンションの一室であつて、マンション敷地の持分と合せて一括売却に付されたものであること、その最低売却価額は評価人の評価に基づきその評価額(敷地の持分金三一五万円、建物金三二八万円、計六四三万円)と同額と定められているところ、右評価においては、本件建物は居宅としてその評価額が算定されていることが認められる。しかしながら、一件記録によれば、本件建物は登記簿上、居宅と表示されてはいるが、僅か14.56平方メートルの床面積しかなく、出入口のほかには、窓等の開口部が全くないこと、また、内部にはトイレとユニットバスの設備があるだけで、台所の設備もないことが認められ、これによれば、本件建物は、その登記簿上の表示にかかわらず、これを一戸の独立した居宅として人の居住の用に供することは到底不可能なものであり、実際には倉庫ないし物置程度のものとしてしか使用できないものというべきである。しかるところ、一件記録中の評価人生江光喜の評価書によると、本件建物の評価額は、マンションの一室としての再調達原価に経年及び観察による減価修正、共有部分による床面積修正並びに市場性による加算修正が施されて算定されたものであるところ、その算定の過程で前述した本件建物の規模、構造等の特異性との関係での減価修正は全くされておらず、これがされていれば、評価額は大幅に異なつたものとなつたと考えられる。のみならず、一件記録によれば、本件建物については評価実施の昭和五七年五月当時で既に金三八万六、四七八円にのぼる多額の管理費が未払いとなつているところ、執行裁判所は最低売却価額を決定するについてこのことを全く考慮していないことが明らかである。しかしながら、右未払管理費は事実上買受人の負担に帰するものと考えられるので、執行裁判所がこれを考慮しなかつたのは当を得ないものというべきである。

そうすると、本件売却許可決定には最低売却価額の決定に関し重大な誤りがあるということができる。

よつて、本件売却許可決定を取り消したうえ、本件売却を許可しないこととし、主文のとおり決定する。

(岡垣學 大塚一郎 川崎和夫)

物件目録〈省略〉

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